韻文のなかでも、今回は古文の和歌の表現技法についてご紹介します。
◆和歌とは
和歌とは、日本に古くからある韻文で、五七五七七の五句三十一音の定型詩です。
和歌をきちんと理解するためには、いろいろな決まり(表現技法)をおさえる必要があります。
では、和歌の表現技法を例歌とともにくわしく見ていきましょう。
◆和歌の表現技法
和歌の表現技法の代表的なものとして「枕詞・序詞・掛詞・縁語・本歌取り」があります。
これらの技法を正しく理解することで、和歌をよりよく鑑賞することができます。
◆枕詞(まくらことば)
それ自体に意味はなく、特定の語を導く修飾語で、五音のものが中心のことば。
【例】
あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今さかりなり
(訳)奈良の都は咲く花が照り映えるように今や盛りである。
『万葉集』の小野老(おののおゆ)の和歌です。「あをによし」が枕詞で、「奈良」を導くはたらきをしています。訳を見てわかるように、枕詞それ自体は訳しません。
◆序詞(じょことば)
ある語を誘導し、情調を添え、印象を強くする表現技法です。
【例】
あしひきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む
(訳)山鳥の尾が長くたれさがっているように長い長い夜を私はひとりで寝るのかなあ。
「百人一首」にも載っている柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)の和歌です。「あしひきの~しだり尾の」が、「ながながし」を導く序詞です。ある語を導くというはたらきは枕詞と同じですが、枕詞が特定の語を導くのに対して、序詞は導く語によってそのつど作り出され、特定の対応関係がありません。また、枕詞は意味を持たず訳しませんが、序詞は訳します。
◆掛詞(かけことば)
同音異義語を利用して一語で二つの意味を表す表現技法です。序詞や縁語とともに使われることが多いです。
【例】
ほのぼのとあかしの浦の朝霧に島隠れゆく船をしぞ思ふ
(訳)ほんのりと明るい明石の浦の朝霧に島に隠れゆく船を私は思う。
『古今和歌集』の詠み人しらず(作者不明)の和歌です。「あかし」が、「明るい」という意味の「明かし」と地名の「明石」との掛詞になっています。「明るい明石」というように掛詞のところを二重に訳すのがポイントです。
◆縁語(えんご)
意味の関連(縁)のある語を意識的に連ねて面白みを出そうとする表現技法です。掛詞とともに使われることが多く、文脈上直接つながりのある語は縁があっても縁語ではないので注意が必要です。
【例】
鈴鹿山うき世をよそにふり捨てていかになりゆくわが身なるらむ
(訳)こうして鈴鹿山を越え、憂き世を自分とは無縁のものとふり捨ててゆくが、これから先わが身の上はどのようになってゆくのだろう。
『新古今和歌集』の西行(さいぎょう)の和歌です。「ふり捨て」の「ふり」が「(鈴を)振り」、「なりゆく」の「なり」が「(鈴が)鳴り」と掛詞の関係で、ともに「鈴鹿山」の掛詞である「鈴」の縁語です。歌の表向きの意味は、「鈴鹿山・振り捨てる・成りゆく」ですが、それと掛詞になっているもう一つの意味のほうの「鈴」と「振り・鳴り」とが縁語の関係になっています。ふつうに「鈴を振る・鈴が鳴る」と表現すると文脈上つながるので、縁語にはなりません。文脈上関係をもたない語どうしが縁語になるのがポイントです。
◆本歌取り(ほんかとり)
有名な歌(本歌)をもとに新たな要素を入れた歌を詠む技法です。
【例】
駒とめて袖うち払ふかげもなし 佐野のわたりの雪の夕暮れ
(訳)馬をとめて袖に降り積もった雪を払うものかげもない。この佐野のあたりの雪の降る夕暮れは。
『新古今和歌集』の藤原定家の和歌です。この歌の本歌は『万葉集』の長忌寸奥麻呂(ながのいみきおきまろ)の歌「苦しくも降りくる雨か三輪の崎狭野(さの)の渡りに家もあらなくに」です。もとの歌の雨を雪に変え、情景を重ねるようにして詠んでいます。
ほかにもいろいろな表現技法がありますが、まずは上記の五つをおさえましょう。
和歌は、五七五七七という短い音数のなかで、さまざまな技法をこらすことによって、情感を深めているのですね。
表現技法をふまえたうえで、和歌をじっくり味わいましょう。