2021年5月31日月曜日

和歌の表現技法



韻文のなかでも、今回は古文の和歌の表現技法についてご紹介します。


◆和歌とは

和歌とは、日本に古くからある韻文で、五七五七七の五句三十一音の定型詩です。

和歌をきちんと理解するためには、いろいろな決まり(表現技法)をおさえる必要があります。


では、和歌の表現技法を例歌とともにくわしく見ていきましょう。

 



◆和歌の表現技法

和歌の表現技法の代表的なものとして「枕詞・序詞・掛詞・縁語・本歌取り」があります。

これらの技法を正しく理解することで、和歌をよりよく鑑賞することができます。



◆枕詞(まくらことば)

それ自体に意味はなく、特定の語を導く修飾語で、五音のものが中心のことば。

【例】

あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今さかりなり

(訳)奈良の都は咲く花が照り映えるように今や盛りである。

『万葉集』の小野老(おののおゆ)の和歌です。「あをによし」が枕詞で、「奈良」を導くはたらきをしています。訳を見てわかるように、枕詞それ自体は訳しません。



 

◆序詞(じょことば)

ある語を誘導し、情調を添え、印象を強くする表現技法です。

【例】

あしひきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む

(訳)山鳥の尾が長くたれさがっているように長い長い夜を私はひとりで寝るのかなあ。

「百人一首」にも載っている柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)の和歌です。「あしひきの~しだり尾の」が、「ながながし」を導く序詞です。ある語を導くというはたらきは枕詞と同じですが、枕詞が特定の語を導くのに対して、序詞は導く語によってそのつど作り出され、特定の対応関係がありません。また、枕詞は意味を持たず訳しませんが、序詞は訳します。

 



◆掛詞(かけことば)

同音異義語を利用して一語で二つの意味を表す表現技法です。序詞や縁語とともに使われることが多いです。

【例】

ほのぼのとあかしの浦の朝霧に島隠れゆく船をしぞ思ふ

(訳)ほんのりと明るい明石の浦の朝霧に島に隠れゆく船を私は思う。

『古今和歌集』の詠み人しらず(作者不明)の和歌です。「あかし」が、「明るい」という意味の「明かし」と地名の「明石」との掛詞になっています。「明るい明石」というように掛詞のところを二重に訳すのがポイントです。

 



◆縁語(えんご)

意味の関連(縁)のある語を意識的に連ねて面白みを出そうとする表現技法です。掛詞とともに使われることが多く、文脈上直接つながりのある語は縁があっても縁語ではないので注意が必要です。

【例】

鈴鹿山うき世をよそにふり捨てていかになりゆくわが身なるらむ

(訳)こうして鈴鹿山を越え、憂き世を自分とは無縁のものとふり捨ててゆくが、これから先わが身の上はどのようになってゆくのだろう。

『新古今和歌集』の西行(さいぎょう)の和歌です。「ふり捨て」の「ふり」が「(鈴を)振り」、「なりゆく」の「なり」が「(鈴が)鳴り」と掛詞の関係で、ともに「鈴鹿山」の掛詞である「鈴」の縁語です。歌の表向きの意味は、「鈴鹿山・振り捨てる・成りゆく」ですが、それと掛詞になっているもう一つの意味のほうの「鈴」と「振り・鳴り」とが縁語の関係になっています。ふつうに「鈴を振る・鈴が鳴る」と表現すると文脈上つながるので、縁語にはなりません。文脈上関係をもたない語どうしが縁語になるのがポイントです。



 

◆本歌取り(ほんかとり)

有名な歌(本歌)をもとに新たな要素を入れた歌を詠む技法です。

【例】

駒とめて袖うち払ふかげもなし 佐野のわたりの雪の夕暮れ

(訳)馬をとめて袖に降り積もった雪を払うものかげもない。この佐野のあたりの雪の降る夕暮れは。

『新古今和歌集』の藤原定家の和歌です。この歌の本歌は『万葉集』の長忌寸奥麻呂(ながのいみきおきまろ)の歌「苦しくも降りくる雨か三輪の崎狭野(さの)の渡りに家もあらなくに」です。もとの歌の雨を雪に変え、情景を重ねるようにして詠んでいます。

 

 

ほかにもいろいろな表現技法がありますが、まずは上記の五つをおさえましょう。


和歌は、五七五七七という短い音数のなかで、さまざまな技法をこらすことによって、情感を深めているのですね。


表現技法をふまえたうえで、和歌をじっくり味わいましょう。

 







2021年5月26日水曜日

短歌の読解問題


 


◆短歌とは

五七五七七の五句三十一音からなる定型詩です。 

それぞれの句を、初句(五)・二句(七)・三句(五)・四句(七)・結句(七)といいます。

五七五を上の句、七七を下の句といいます。

定型からはずれたものを破調といいます。

五七五七七より音数が多いと字余り、少ないと字足らずといいます。

[] 清水へ 祇園をよぎる 桜月夜 こよひ逢う人 みなうつくしき

作者は与謝野晶子です。この歌は、第三句の「桜月夜(さくらづきよ)」が六音で字余りになっています。




◆短歌の句切れ

意味や調子の上で切れるところを句切れといいます。

初めの五で切れると「初句切れ」、次の七で切れると「二句切れ」、以下「三句切れ」「四句切れ」となり、最後の結句で切れるものを「句切れなし」といいます。

俳句の句切れは、切れ字の「や・かな・けり」が目印になったのですが、短歌は句切れの目印はあまりありません。

強いていうと、「活用語の終止形」が目印です。つまり、「。」が入るところが句切れ


句切れのいちおうの目安として


『かな・けり・なり・り・終止形・「〜い・〜しい」で言い換えられる「〜し」の形』


と覚えてもらっています。

「~し」は、文語の形容詞の終止形です。たとえば、「高し」「美し」などです。

「高し」は「高い」、「美し」は「美しい」と言い換えられるので、形容詞の終止形だと見分けられます。

 

[うすべにに 葉はいちはやく 萌えいでて 咲かんとすなり 山桜花 

若山牧水の歌です。第四句の「咲かんとすなり」の「なり」が句切れの目印で四句切れです。

ちなみに「なり」は助動詞の終止形です。

 

[] 海恋し 潮の遠鳴り かぞへては 少女となりし 父母の家

与謝野晶子の歌です。初句切れの歌。「~しい」で言い換えられる「~し」が句切れの目印で、初句の「恋し」がそれにあたります。

「恋し」の「し」を「しい」で言い換えると「恋しい」となり、形容詞の終止形だとわかります。「少女となりし」の「なりし」も「~し」の形ですが、「なりい」「なりしい」と言い換えられないので、形容詞の終止形ではないとわかるのです。


 

◆短歌の調子

句切れの場所により短歌の調子が決まります。

・初句切れ・三句切れの歌を「七五調」といいます。

五/七五/七七

初句と三句で切れると、七五がつながりますよね。

ですから、七五調となるわけです。


・二句切れ・四句切れの歌を「五七調」といいます。

五七/五七/七

二句と四句で切れると、五七がつながります。

ですから、五七調となります。



◆枕詞

短歌には特定のことばにかかる五音の「枕詞(まくらことば)」というものがあります。

たとえば、「たらちねの」は母にかかる枕詞。「あをによし」は奈良にかかる枕詞です。

これは、具体的な意味を持たないので気をつけましょう。


[例] たらちねの 母がつりたる 青蚊帳を すがしといねつ たるみたれども

長塚節の歌です。初句に「たらちねの」という「母」にかかる枕詞があります。つぎに「母」が来ていますね。「たらちねの」自体に意味はなく、母を導くはたらきをしています。



 

◆短歌の解釈問題

入試などで出題される短歌の解釈は、ある程度客観性がなければ解答を導き出せません。

ですから、選択肢の内容と短歌とを照らし合わせて、照合する部分を見つけ出すというのが読解のポイントです。

 

 

【例題】

つぎの短歌の説明としてふさわしいものを後から選びなさい。

① いつしかに春の名残となりにけり昆布干場のたんぽぽの花       北原白秋

② ゆかのうへ水こえたれば夜もすがら屋根の裏べにこおろぎの鳴く    伊藤左千夫

③ うすべにに葉はいちはやく萌えいでて咲かんとすなり山桜花      若山牧水


ア 聴覚にうったえる歌で、作者は台風の去った夜にしみじみとした気分にひたっている

イ 春の終わりを歌ったもので、春を象徴するものを感慨深く見つめている

ウ 体言止めが効果的に使われ、細やかな観察により花の色彩と生命がとらえられている

 

【解答】

①イ ②ア ③ウ  

①は、「春の名残」の部分が、イの「春の終わり」と対応します。

②は、「こおろぎの鳴く」が、アの「聴覚にうったえる」に対応します。

③は、「うすべに」が、 ウの「花の色彩」に対応します。

 



◆短歌のまとめ

1.五七五七七の五句三十一音の定型詩

2.句切れは基本的に終止形のところ

3.初句三句で切れると「七五調」、二句四句で切れると「五七調」

4.特定のことばにかかる枕詞に注意

5.鑑賞文は客観的な根拠を探す




2021年5月25日火曜日

俳句の読解問題

 



◆俳句とは

俳句とは、五・七・五の十七音で自然や心情を表した短い定型詩です。

江戸時代には、芸術性が低く、「俳諧」と呼ばれていました。



◆俳句の決まり

俳句には、つぎの三つの決まりがあります。

1.五七五の十七音の定型

2.季語(季題)

3.切れ字

 


1.五七五の十七音の定型

俳句は、五七五の十七音の定型詩です。

五七五の定型から外れたものを「破調」といい、音数が多いものを「字余り」、少ないものを「字足らず」といいます。

[例]赤い椿 白い椿と 落ちにけり  河東碧梧桐

「赤い椿(あかいつばき)」が六音で字余りになっています。

字足らずの俳句はそれほど多くありません。

 


定型にとらわれず、自由に読んだものを自由律俳句といいます。

[例]咳を しても 一人  尾崎放哉

「せきを」「しても」「ひとり」と、三・三・三の九音で定型にとらわれない自由律俳句です

 


2.季語(季題)

俳句では、一句にかならず一つの「季語」を入れます。季語とは、季節を表すことばで、動物・植物・年中行事などが多いです。

[例]遠山に 日の当たりたる 枯野かな  高浜虚子

「枯野」が冬の季語です。


俳句の季節は旧暦に基づくので、現在の季節感とはズレるばあいがあるので注意が必要です。

次のように覚えるとよいでしょう。

【俳句の季節】

1・2・3月=春  

4・5・6月=夏

7・8・9月=秋  

101112月=冬

日時がはっきりしている行事などは、これで季語の季節が見分けられます。

たとえば、「ひな祭り」は3月3日ですから、春の季語とわかります。


近代以降の季語にとらわれない俳句を「自由律俳句」といいます。

また、一句に二つ以上の季語を入れるのを「季重なり」といい、禁じられています。


 

3.切れ字

意味や調子の上で大きく切れるところを「句切れ」といい、そこに使われる字を「切れ字」といいます。

切れ字の代表は「や・かな・けり」です。どれも感動や詠嘆を表すことばです。

切れ字のあるところが感動の中心(作者の言いたいこと)になるのがふつうです。

[例]啄木鳥や 落ち葉をいそぐ 牧の木々

「啄木鳥や」の「や」が切れ字です。ここで切れるので「初句切れ」の句です。


啄木鳥が秋の季語で、落ち葉が冬の季語ですから、季語が二つあるようですが、「や」がついている「啄木鳥」が感動の中心ですから、季語は「啄木鳥」のほうになります。

 


◆俳句の読解

俳句の読解問題では、俳句の内容を説明した鑑賞文を記号で選ぶ問題が頻出です。

次の手順で読解を進めましょう。

① わかりやすい季語の季節の説明をチェックする。

② 鑑賞文の内容と俳句の表現とを照らし合わせる。


試験ですから、解釈にある程度の客観性が求められます。

なんとなくではなく、選択肢の内容と俳句の表現との間に関係性(=根拠)があるものを選びましょう。

 

【練習問題】

次の俳句の鑑賞文としてふさわしいものを記号で答えなさい。

① 咳一つ赤子のしたる夜寒かな    芥川龍之介     

② ままごとの飯もおさいも土筆かな  星野立子

③ わらやふるゆきつもる   荻原井泉水     

 

ア むじゃきに遊んでいる子どもたちを温かい目で見つめている春の句

イ 日常的なことだが親にとっては大事件で、ヒヤリとする驚きと不安を詠んだ句

ウ ひらがなの柔らかさで冬のありさまを素直に詠んだ自由律の句

 


【解答】

①イ ②ア ③ウ

 

①は、寒い夜に赤子が咳をしたら、「親にとっては大事件」ですから、イ。

②は、「土筆」が春の季語。さらに、子どもたちが「おままごと」をしているので、「むじゃきに遊んでいる子どもたち」とあるアが正解。

③は、「わらや」「ふるゆき」「つもる」で、五七五の定型から逸脱しているので、自由律俳句です。また、すべてひらがなで表記されているので「ひらがなの柔らかさ」のウが正解です。

 



◆俳句のまとめ

1.五七五の十七音の定型

2.季語(季題)

3.切れ字

4.鑑賞文は客観的な根拠を探す

 


 


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2021年5月24日月曜日

韻文の表現技法

 


韻文では、さまざまな表現技法が使われます。

表現技法を知ることで韻文をよりよく味わうことができますし、試験でも問われることが多いのです。

ここでは、詩の主な表現技法をご説明します。



◆詩の表現技法

主な詩の表現技法には次のようなものがあります。

1.直喩(明喩)

2.隠喩(暗喩)

3.擬人法

4.体言止め

5.対句

6.反復法

7.倒置法


以下、例文とともに各表現技法を説明します。

 


1.直喩(明喩)

あるものを別の似たものにたとえる表現技法

たとえる表現が明示されている。

[] 滝のような雨が降っている。(「ような」がたとえる表現)



2.隠喩(暗喩)

あるものを別の似たものにたとえる表現技法

たとえる表現が明示されない。

[] 滝の雨が降っている。

 

直喩と隠喩の二つはセットで覚えるとよいでしょう。

二つの違いは「たとえる表現」を明示するかしないかという点です。

直喩のほうは、たとえの助動詞「ような」を明示し、「滝のような雨」と雨を滝にたとえています。

隠喩のほうは、たとえの表現が明示されず「滝の雨」と表現しています。これは、「滝の(ような)雨」というように、たとえの表現が隠れているから「隠喩」と覚えるとよいでしょう。

 


3.擬人法(活喩法)

人間以外のものを人間にたとえる技法

[] 空が泣いている。

雨が降る様子などを「空が泣く」と表現しています。空は人間以外、雨を涙に見立てて泣いていると表現しています。



4.体言止め

文の最後を体言(名詞)でとめ、余韻を残す技法

[] まあるくひかる空のお月さま

「お月さま」という体言で文を終えています。ふつう、体言(名詞)は、主語などになるので、次にことばが続くばあいが多く、余韻が残ります。



5.対句

意味や構造が同じ文や句を並べる技法

リズムが良くなります。

[]  空に鳥が歌い、海に魚がはねる。

「空に」と「海に」がともに修飾語、「鳥が」と「魚が」がともに主語、「歌い」と「はねる」がともに述語で、文法的構造が同じ文が並んでいます。

 


6.反復法

同じ語句を繰り返し用いる技法

[]  咲いた、咲いた、咲いた、花が咲いた。

「咲いた」を4回も繰り返しています。

 


7.倒置法

ことばの順序を逆にして強調する技法

[] かっこいいなあ、きみの自転車は。

「きみの自転車はかっこいいなあ」という文の主語と述語とを逆の順序にしています。「かっこいいなあ」を強調する効果があります。

 


例は省略しますが、他にも次のようにたくさんの表現技法があります。


対照法:違いのあるものを対比させ様子を鮮明にあらわすもの

引用法:詩の中に他人の詩やことばを引用するもの

転換法:直接本物を言わず関係のあるものでそのものをあらわすもの

省略法:ことばを省略し余韻をのこすもの

誇張法:じっさいよりも大げさに表現するもの

漸層法:しだいに意味を発展させ意味を強めていくもの

現写法:過去や未来の出来事を現在目の前で起きているように表現するもの

設疑法:疑わしくないものをわざと疑問のかたちにするもの

詠嘆法:感情を強く表現するもの

招呼法:その場にいない人がまるで目の前にいるかのように呼びかけるもの

擬態法:事物の状態や様子などを音声的にことばで表現するもの

問答法:二人以上の人物に問答させ作者の主張を表現するもの

 


このような表現技法を工夫することによって、詩に独特の印象を与えるのです。

詩を読むときには、表現技法を意識してみましょう。 





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2021年5月20日木曜日

韻文の用語・形式

 


◆韻文とは

詩・俳句・短歌などを「韻文」といいます。

韻文は、作者の感動を象徴的にことばに表現したものです。

今回は、韻文の用語と形式についてご紹介します。


韻文は、(1)用語、(2)形式、(3)内容 から次のように分類されます。

(1)用語

・文語詩:古文で書かれた詩

・口語詩:現代語で書かれた詩

 

(2)形式

・定型詩:各句や各行の音数が決まっている詩

・自由詩:各句や各行の音数が決まっていない詩

・散文詩:文章のような詩

 

(3)内容

・叙情詩:感情を中心に述べた詩

・叙景詩:景色を中心に述べた詩

・叙事詩:歴史上の出来事や事件を述べた詩

 

 


次の歌を例にして「用語・形式・内容」を具体的に説明します。


【例】奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき

 

『百人一首』の猿丸大夫の歌ですね。



【用語】

たとえば、「声聞く時ぞ」の「ぞ」は古文の係助詞、「悲しき」は古文の形容詞です。

このように古文のことばで表現された詩を「文語詩」といいます。


【形式】

韻文の学習において、散文詩は、ほとんどあつかわれません。

ですから、定型詩か自由詩かを見分けられるようにすることが大切です。

定型詩とは音数が決まっている詩でした。

音数とは、非常におおざっぱにいうと、ひらがなで表現したときの文字数のことです。

たとえば、俳句は「五・七・五」の十七文字の定型、短歌は「五・七・五・七・七」の三十一文字の定型です。

ちなみに、拗音(ようおん)=小さい「ゃ・ゅ・ょ」などは、「きゃ」で一音というように前の文字とセットで一音です。また、促音(そくおん)=ちいさい「っ」はそれだけで一音です。


さて、「奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき」の歌です。

ひらがなにすると、

 

おくやまに(五音)

もみぢふみわけ(七音)

なくしかの(五音)

こゑきくときぞ(七音)

あきはかなしき(七音)

 

となり、「五・七・五・七・七」の三十一音の定型に当てはまる「定型詩」となります。

 


【内容】

この歌は、「奥深い山に散った紅葉の葉を踏み分けて入っていくと鹿の声が聞こえる。その時、しみじみと秋のもの悲しさを感じるなあ。」という意味です。

「秋の悲しさ」という感情を述べた詩なので、「叙情詩」です。


じつは、韻文は、ほとんどが叙情詩なのです。

叙事詩は、伝説の英雄や神話などをうたった長文の詩で、ふつう学校教育ではあつかいません。叙景詩もほとんど見られないので、韻文といったら叙情詩と思っておいて大丈夫です。


 

というわけで、

奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき

「文語」「定型詩」「叙情詩」と分類できます。

 


◆まとめ

韻文の分類

【用語】文語詩・口語詩

【形式】定型詩・自由詩・散文詩

【内容】叙情詩・叙景詩・叙事詩



しっかり見分けられるようにしましょう。




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2021年5月13日木曜日

文節相互の関係の効率のよい見分け方

 



◆文節相互の関係とは

文節相互の関係とは次の6種類です

1.主語・述語の関係

2.修飾・被修飾の関係

3.接続の関係

4.並立の関係

5.補助・被補助の関係

6.独立の関係

 

これらを効率よく見分けるにはどうすればよいでしょうか。



◆文節相互の関係の効率のよい見分け方

6種類の文節相互の関係のうち、型が決まっているものから見分けていきます。


つぎの手順で見分けていきましょう。


⑴ 接続の関係のうち、接続詞接続の関係の見分け方と注意点参照)は文と文とをつなぐのですぐにわかります。


⑵ 独立の関係独立の関係の見分け方と注意点参照)

 これは文頭にあり、「①感動・②呼びかけ・③応答・④指示」を表すのですぐにわかります。


⑶ 並立の関係並立の関係の見分け方と注意点参照)

 同じ働きの二つ以上の文節が並んでいるので、すぐにわかります。


⑷ 補助・被補助の関係補助・被補助の関係の見分け方と注意点参照)

 これは、たいてい文末にあり、「~て/…。~で/…。~く/ない。」の形なので、すぐにわかります。


これらの型で見分けられるものを先に見つけます。



さて、ここからが問題です。

わたくしの経験では、「主語・述語の関係」と「修飾・被修飾の関係」と「原因・理由を表す接続の関係」を間違える生徒をよく見かけます。



そこで、次のように見分けていきましょう。

⑸ 主語・述語の関係主語・述語の関係の見分け方と注意点参照

文の最後にある文節=述語に対して、「何が(誰が)」に当たる文節が主語だと考えるとわかります。


⑹ 文頭にあり、「原因・理由」を表す文節は接続語接続の関係の見分け方と注意点参照)だと見抜きます。


⑺ 上以外は、修飾・被修飾の関係修飾・被修飾の関係の見分け方と注意点参照)だと見抜きます。


この手順で解く練習を積めば、たいていどの生徒も見分けられるようになります。




じっさいに問題を解いてみましょう。

問 次の文の傍線部の文節相互の関係を答えなさい。

おにぎりと パンを 売店で 買った。     

② ひまわりの 花が 美しく 咲いた。      

真っ青な 空を ながめて いる。        

疲れたので、休憩した。           

⑤ 鳥が 大空を 飛んで ゆく。     

⑥ 私は 毎日 ピアノを  練習する。       

⑦ 風が 強い。そのうえ、雨まで 降り出した。  

ああ、すばらしい 映画だったなあ。

 



【解答】

①並立の関係

②主語・述語の関係

③修飾・被修飾の関係

④接続の関係

⑤補助・被補助の関係

⑥修飾・被修飾の関係

⑦接続の関係

⑧独立の関係

 

 

【手順】

⑴ まず、文と文とをつなぐ接続詞の「⑦」を接続語だと見抜きます。

⑵ 文頭にあって、感動を表している「⑧」を独立語だと見抜きます。

⑶ 「おにぎりと パンを」という同じような働きの文節が並んでいる「①」を並立の関係だと見抜きます。

⑷「~て/…。~で/…。~く/ない。」の「~で/…。」の形である「⑤」を補助・被補助の関係だと見抜きます。



⑸ さて、ここから「主語・述語の関係」と「修飾・被修飾の関係」と「接続語」とを見分けていきます。


まず、「②・③・④・⑥」のうち、文末の文節に線が引いてあるのが「②・⑥」。その文節は述語です。

つぎにその「述語」に対して「何が」にあたる「主語」をさがします。

すると、「②」は、「花が」「咲いた」で、主語・述語の関係が成り立ちますが、「⑥」は「毎日が」「練習する」となり、主語・述語の関係としてはおかしいとわかります。


さらに、「④」は、「原因・理由や条件」を表しているので「接続語」だとわかります。


さいごに残った「③・⑥」が修飾・被修飾の関係だと考えられます。

「③」は「真っ青な」が、どのような「空」かをくわしく説明しているので、「修飾・被修飾の関係」だとわかります。

「⑥」も「毎日」が、どのように「練習する」のかをくわしく説明しているので、やはり「修飾・被修飾の関係」だとわかります。

 

ポイントは、わかりやすいものから探すということです。

この視点を方針として何度も演習を繰り返せば、効率よく文節相互の関係を見分けられるようになりますよ。

ぜひ、試してみてください。

 

◆ポイント
1.型の決まっている「独立・並立・補助の関係」と「接続詞」をまず見抜く

2.残ったもののなかから「主語・述語の関係」「接続の関係」「修飾・被修飾の関係」を見抜く




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2021年5月12日水曜日

記事一覧

 

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以下のリンクから各記事にとべます。


【漢字編】

漢字の効果的な覚え方

まぎらわしい漢字の見分け方

同訓異字漢字の見分け方

注意すべき同訓異字の漢字BEST5その1

注意すべき同訓異字の漢字BEST5その2

 

【文法編】

文節の区切り方と注意点

主語・述語の関係の見分け方と注意点

修飾・被修飾の関係の見分け方と注意点

接続の関係の見分け方と注意点

補助・被補助の関係の見分け方と注意点

並立の関係の見分け方と注意点

独立の関係の見分け方と注意点

文節相互の関係の効率のよい見分け方

名詞

連体詞

副詞

接続詞

感動詞

動詞(1)-活用形-

動詞(2)-活用の種類-

動詞(3)-可能動詞-

形容詞

形容動詞

助動詞 -助動詞の意味-

助動詞「ない」の識別

助動詞「れる・られる」の識別

助動詞「ようだ」の識別

助動詞「そうだ」の識別


【韻文編】

韻文の用語・形式

韻文の表現技法

俳句の読解問題

短歌の読解問題

和歌の表現技法


【古文編】

歴史的かなづかいの読み方

古文単語の暗記法


【漢文編】

漢文の勉強法「推敲」

漢文の勉強法「虎の威を借る狐」

漢文の勉強法「朝三暮四」


独立の関係の見分け方と注意点

 



◆独立の関係とは

他の文節と関係がなく、「感動・呼びかけ・応答・提示」などを表す文節を「独立の関係」の文節といいます。独立の関係の文節を独立語と呼びます。

【例文】

まあ、すてきな人だわ。 〈感動〉

おい、聞いているのか。 〈呼びかけ〉

はい、すぐに行きます。 〈応答〉

、それは生物の故郷。 〈提示〉

 

例文の「まあ」「おい」「はい」「海」は、どれも文のほかの語と関係を持たず、独立しています。

 


◆独立語の見分け方と注意点

〈感動〉は、強く心を動かされたときに発することばです。

〈呼びかけ〉は、相手に向かって呼びかけていることばです。

〈応答〉は、相手からの問いかけなどに答えることばです。

〈提示〉は、主題としてあげられたことばで、その後に説明が続きます。

 

・独立語は、たいてい文頭にあって「読点(、)」がついています。

・「感動」は、かならずしも感動したときにあげることばとは限りません。たとえば、恐怖や驚きであげる「キャー」「ヒィィィ」なども感動です。

・「提示」は、主題のことばで、後にそのことばを指示する指示語が来て、説明する文が続くのが定番です。提示を主語と間違えないように気をつけましょう。

 

 

 

問題をあげておきます。

問 次の文の独立語を抜き出し、種類を答えなさい。

① 山田君、はやくこっちへ来なさい。        

② 知っていたのか。いいえ、知りませんでした。  

③ うおお、なんておいしいケーキなんだ。    

④ 一月一日、この日は一年の始まりの日。     

 

【解答】

① 山田君 〈呼びかけ〉

② いいえ 〈応答〉

③ うおお 〈感動〉

④ 一月一日 〈提示〉

 

 

◆まとめ

独立の関係とは他と関係を持たない「感動・呼びかけ・応答・提示」を表す文節のこと





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並立の関係の見分け方と注意点

 


◆並立の関係とは

対等に並んだ二つ以上の文節どうしの関係を「並立の関係」(または、「対等の関係」)といいます。


例えば次のようなものです。

【例】彼は やさしく ほがらかだ。    

 

「やさしく」と「ほがらかだ」という文節は、どちらも彼の性格を説明する述語となっています。

こういう文節相互の関係を「並立の関係(対等の関係)」といいます。



 

◆並立の関係の見分け方と注意点


「並立の関係」の文節は、入れかえても文全体の意味は変わりません。


たとえば、「彼は やさしく ほがらかだ」という文は、「彼は ほがらかで やさしい」と言いかえても文全体の意味は変わりませんね。

もともと「彼はやさしい。」という文と「彼はほがらかだ。」という文とを統合したのが「彼はやさしくほがらかだ。」という文なのです。

ですから、前後が入れかわっても内容に変わりはないのですね。



並立されているのは、本当は単語なのですが、学校文法では文節単位で文の成分を考えるので、並立語も文節で抜き出しましょう。

たとえば、「ラーメンとそばを食べた。」という文の並立語の関係は?と問われたら、「ラーメンと」と「そばを」が正解です。

意味的には、「ラーメン」と「そば」が並立されているのですが、「並立の関係」とは文の中での文節のはたらきのことですから、文節単位で関係が決まります。

学校文法は、文節単位で文の成分(文節のはたらき)が決められますので、注意しましょう。



練習問題をあげておきます。

問 次の文の並立の関係の文節を答えなさい。

① 私は ノートと 鉛筆を 買いました。

② ここは 静かで 美しい 街です。

③ 彼は とんだり はねたり する。

【解答】

①ノートと鉛筆を

②静かで美しい

③とんだりはねたり

 



◆まとめ

・対等に並んだ二つ以上の文節の関係を並立の関係という

・並立の関係の文節は入れかえても文全体の意味は変わらない



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2021年5月11日火曜日

補助・被補助の関係の見分け方と注意点





文法編、今回は補助・被補助の関係です。

 

 

 

◆補助・被補助の関係とは

本来の意味が薄れ、前の文節を補助する文節を「補助語」といい、補助される文節を「被補助語」といいます。この文節相互の関係を「補助・被補助の関係」といいます。

 

例文で説明しましょう。


【例文】試しに食べてみる。

 

 この文の「食べて みる」が補助の関係です。

「みる」が補助語で、前の「食べて」という被補助語を補助しています。

「試しに食べる」でも文は成り立ちます。が、「みる」が「食べて」を後ろから補助することで「試しに~する」という意味を付け加えているのです。

 「みる」は、本来の「みる」という意味がほぼなくなっています。

 

 ほかにも次のようなものがあります。

 ⑴ 帰って しまう

 ⑵ 静かで ある

 ⑶ 美しく ない

 

 

 ⑴は「しまう」が補助語、⑵は「ある」が補助語です。どちらも本来の「しまう」「ある」という意味が薄れて、前の文節を補助しています。

ちょっと毛色が違うのが⑶です。⑶は「ない」が補助語ですが、否定のはたらきをしています。


 この「ない」は補助形容詞(形式形容詞)といわれ、形容詞の「ない」と区別されます。

. お金が ない

. お金が ほしく ない

アの「ない」は、「ものが存在しない」という意味の形容詞です。イの「ない」は、否定を表す補助形容詞であり、「ほしく」を否定しています。

 

どちらも形容詞なのですが、アがそれ自身で独立しているのに対して、イは「静かでない」「ほしくない」などと、否定する対象とともに用いられる点で独立性が薄く、補助語とされています。

 ただ、否定の助動詞の「ない」とは違って一文節をつくれるので、補助用言と呼ばれています。

 

 

 

 

 

 

 

◆補助・被補助の関係の見分け方と注意点

補助の関係は型が決まっているので、それを覚えてしまったほうがよいでしょう。


《補助・被補助の型》 

「 ~て / …。~で / …。~く ない。」

 

と覚えましょう。

 

 

 これは、

・歩い / いる

・読ん / みる

・美し / ない

 というように、被補助語のさいごが「て・で・く」で終わることがポイントです。

 

補助形容詞の「ない」ときは、被補助語が形容詞の連用形(美しく)なので、「~く/ない」の形で覚えてしまうとよいでしょう。

 

ただし、助詞の「は・も」などが間にはさまるときもあります。

たとえば、「歩いて / いる」「読んで / みる」「美しく / ない」などです。

 

 

 

 

 

私は、授業では替え歌を披露して生徒に覚えさせています。

 

ジブリ映画「崖の上のポニョ」の歌に合わせて歌います。

 

 

 

「崖の上のホジョ」

ほーじょ ほーじょ ほじょ て で くない

下が上をほじょすーるー

ほーじょ ほーじょ ほじょ て で くない

もとのいみが薄れているー 

 

 

 

これを歌うと、まず間違いなく覚えてくれますね。

 

 ぜひ歌ってみてください。

 

 

 

 

 

練習問題をしてみましょう。

 

問 次の文の補助・被補助の関係の文節を答えなさい。

① 新発売の ケーキを 食べて みた。 

② この 映画は あまり おもしろく ない。 

③ 私は 今日から 中学生で ある。  

 

 

 

 

 

【解答】

 ① 食べて みた

 ② おもしろく ない

 ③ 中学生で ある

 

 

 

 

 

 

 


◆まとめ

・補助の関係の型
「 て / …。・で / …。・く / ない。」

・補助語が後で、前の文節を補助する

・補助語はもとの意味が薄れている




追記
2021年度の東京都の公立高校入試問題において補助の関係が出題されました。
ところが、解答がないということで、無効問題となりました。

以下引用

───────────────
(5)かならずや とあるがこの言葉が直接かかるのは、次のうちどれか。

ア 名人で
イ いらっしゃるに
ウ 違いない
エ 申すのです

───────────────
引用終わり

当初、東京都は正解を「イ」としていましたが、「ウ」も該当するため、無効とし全員に一律5点を与えたそうです。

たしかに、「ウ」もかかる文節として成り立つのかもしれません。

しかし、それ以前にこの問題はおかしいのです。

イの「いらっしゃるに」は、アの「名人で」とセットになり、補助の関係を構成しています。

つまり、

「 名人で(被補助語) / いらっしゃるに(補助語)」

となります。

補助の関係は、かならず補助語と被補助語との二文節で文の成分になります。

この問題では、「かならずや」が文の成分としては「修飾語」ですから、「名人でいらっしゃるに」の二文節が「被修飾語(被修飾部)」になるはずです。

被修飾語を答えるのに、補助語の一文節で選ばせるのはおかしいのです。


入試問題には細心の注意をはらうようお願いしたいですね。








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